開始1分30秒の出来事がすべて
ルーズボールを拾おうと反応したスコット・マクトミネイのヒザ上にアレクサンドレ・ヤンケビッツが足裏を見せてキック。これを見たマイク・ディーン主審は迷わず19歳のMFにレッドカードを提示した。開始わずか1分30秒の出来事である。これにはラルフ・ハーゼンヒュットル監督も下を向くしかなかった。
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この日がプレミアリーグ初スタメンだったヤンケビッツの退場により、試合は案の定一方的な展開となった。ボールを持ち続けるマンチェスター・ユナイテッドに対し、サウサンプトンはツートップの一角を担ったダニー・イングスを左サイドに下げた4-4-1で対応。とにかく自陣に引き守りに徹した。
しかし、サウサンプトンはハイライン&ハイプレスのエネルギッシュなスタイルをベースとしている。当然、このような戦い方を長い時間続けることには慣れていない。しかも一人少ない状況で、相手は個のレベルが高いユナイテッド。いくらなんでも厳しいものがあった。
一方のユナイテッドは、いとも簡単にサウサンプトン陣内深くに侵入。センターバックのハリー・マグワイアがアタッキングサードまで顔を出すほど、大きな余裕を持って攻めることができた。そして、18分に先制ゴールを奪うことに成功している。
ここからは怒涛のゴールラッシュだった。ユナイテッドは前半だけで4点を奪うと、後半に入っても攻撃の手を緩めず。86分にはヤン・ベドナレクまでもを退場へと追い込み、最終的に9得点を奪っている。なお『Opta』によると、プレミアリーグで9点差以上がついたのはこれで3回目。サウサンプトンは昨季のレスター戦に続き2季連続で0-9の大敗を喫することになってしまった。
ヤンケビッツの退場ですべてが狂ったサウサンプトンを前に、ユナイテッドは24本ものシュートを浴びせている。支配率は75%を記録し、被シュート数は3本。もはやサウサンプトンはユナイテッドのサンドバッグ状態となっていた。
安定感が続くショー
引いた相手に対しての崩し方はユナイテッドの課題となっていたが、この日は停滞感のようなものを漂わせることがなかった。もちろん相手が一人少ない状況だったことが大きいが、とくに前半はスムーズにボールを動かし、サウサンプトン守備陣を効果的に揺さぶることができていた。
崩しのパターンとして目立ったのはブルーノ・フェルナンデスを中心にパスを回し続け、サウサンプトン守備陣の注意を中央に集めたところで大外に展開し、そこからクロスを上げてペナルティーエリア内でのアクションを引き起こす、というもの。事実、9得点のうち5得点はこの形で生んだものだった。
その中で輝きを放っていたのが、ルーク・ショーとアーロン・ワン=ビサカの両サイドバックだ。
まずはショーに触れておきたい。
同選手は体重が増加しやすいタイプと言われており、怪我も決して少なくないなど、これまでは継続性に課題があると指摘されてきた。ただ、今季は一時期ハムストリングの怪我で離脱することもあったが、ハイパフォーマンスを継続。ポルトからやって来たアレックス・テレスの存在も刺激になっていると言われているが、明らかに進化した姿を披露している。
サウサンプトン戦でもそれは大きく証明された。
チームとして押し込む時間が続く中、ショーも高い位置でのプレーを継続。18分にはピンポイントクロスでワン=ビサカのゴールを演出、25分にはドリブルでハーフスペースを突き得点が生まれるキッカケに。そして39分にも正確なクロスでエディンソン・カバーニの得点をお膳立てしている。
ショーは45分間のみのプレーとなったが、パス成功率92%、キーパスはフル出場を果たしたB・フェルナンデスと並びトップタイとなる5本繰り出し、そのうち2つでアシストを記録するなど申し分ない働きだった。
昨季終了時点でプレミアリーグにおけるアシスト数はわずか9本。攻め上がった際の仕事ぶりでそこまで存在感を示してこなかったショーだが、クロスの精度やタイミングは確実に向上しているとみていいだろう。事実、2018/19シーズンはクロス52本で成功率27%、2019/20シーズンは同38本で同24%、今季はすでにクロス90本で成功率33%を記録している。今後、この数字が伸びていくのかどうか期待だ。
ワールドクラスに近づくワン=ビサカ
そのショーに負けじと活躍したのが右SBのワン=ビサカだ。
もはや替えの利かない選手となっている背番号29は、サウサンプトン戦でリーグ戦8試合連続スタメン出場。18分には相手の戦意を削ぎ落す先制弾をマークしており、後半には鋭いクロスでアントニー・マルシャルの得点が生まれるキッカケを作り出すなど、目に見える結果をしっかりと残した。
現代サッカーにおいてSBの重要性は増している。走力を生かして攻守に貢献するだけでなく、試合を動かすことができる存在に変化しているのは明らかだ。
代表格はやはりリバプールのトレント・アレクサンダー=アーノルドとアンドリュー・ロバートソンだろう。彼らの攻撃参加、そしてアタッキングサードで見せるクオリティーは今やリバプールには欠かせない大きな武器となっている。
セリエAで好調を維持するミランも左サイドにテオ・エルナンデスという超攻撃型SBがおり、右SBのダビデ・カラブリアも積極的にペナルティーエリア内へ侵入する機会が増えているなど、両SBの働きが攻撃力アップには欠かせなくなっている。また、マンチェスター・シティのジョアン・カンセロも攻撃面におけるクオリティーはピカイチで、目に見える数字も残している。
サウサンプトン戦の1点目の場面は左SBショーのクロスにワン=ビサカが飛び込んだのだが、前節アーセナル戦でもよく見られた通り、ワン=ビサカがペナルティーエリア内へ侵入する頻度が確実に増している。ユナイテッドも上記したチームのような新たな攻撃パターンを構築しようとしていると考えても不思議ではないだろう。
もしユナイテッドにこのような形が定着するならば、ワン=ビサカのオフェンス能力は自ずと高まるだろう。そうなれば、もともと守備能力が高い同選手はさらに隙の無い存在となる。オーレ・グンナー・スールシャール監督の采配次第とも言えそうだが、ワン=ビサカはワールドクラスに近づきつつあるのかもしれない。
(文:小澤祐作)
【了】
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