名将・原辰徳なら何かやってくるかなとちらりと思っていた。昨年、今回と同じくその年最初のTG戦が甲子園で行われたときのことを思い出したからだ。当時、阪神打線の注目選手は新加入のボーアだった。

20年3月8日のこの対戦。4番ボーアが打席に入ったときに巨人守備陣は「ボーア・シフト」を取った。三塁手が左翼の位置へ入り「外野4人制」に。残る3人の内野手は右寄りに守った。すでにオープン戦で日本ハムも見せていたボーア・シフトだった。

「1回やっておこうとね。現実、どういう風になるかはともかく。動いておかないとそのときあわててしまうケースもあるからね。左でプル(引っ張り)のパワーヒッターだし」

原はそう説明した。ボーアはセーフティー・バントの構えを見せ、原を驚かせたひと幕もあったが、プロはいろいろ考えるなとあらためて実感した。

そして阪神の話題を独占している佐藤輝との初対戦だ。試合前に原はテレビの生放送に出演。昨秋ドラフトでクジを外しているだけに「欲しかったですね。ただ阪神に久々に大物が入った。負けじと抑えていくというところでファンは盛り上がると思う」と話した。

佐藤輝はここまで相当な活躍を見せている。だから何か仕掛けてくるか…と思っていたが、それはなかった。しかし冷静になれば、それは当たり前だ。

4回に飛び出た佐藤輝の決勝弾。左翼ポール際ギリギリに飛び込み、指揮官・矢野燿大のリクエストの結果、本塁打になった。これが象徴するようにOP戦で放った4本塁打はすべて中堅から左方向だ。

「真っすぐ系は内角球でもセンターから左、変化球はもっとヘッドが走るので引っ張りになるんでしょう」。日刊スポーツ評論家・桧山進次郎と先日、話したときに桧山は現在の傾向をそう分析していた。その通り、7回の第3打席で佐藤輝は変化球を引っ張って右前打をマークした。

アッパー気味に振る独特の打撃フォームのせいかどうか、あえて言えば内角の速い真っすぐに対応して強く引っ張ることは、現状ではできていないのかもしれない。それでもコースに合わせて広角に、それも長打を放てることはしっかり証明している。何よりこういう打者にシフトは取れない。「対応力ある長距離砲」という姿をシーズンでも見たい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)