「不思議な勝ち方をさせていただいて……」
レース後の囲み取材で、駒澤大学の大八木弘明監督はしみじみとこう呟いた。
史上稀に見る大逆転劇で総合優勝を勝ち取りながら、高揚感にひたる様子はあまりない。駒大目線でレースを振り返ると、その理由が見えてくる。
第97回箱根駅伝は1区から異例の展開となった。テレビ解説を務めた瀬古利彦氏が思わず「練習のジョギングより遅いかもしれない」と話したほど、有力選手がけん制し合い、ペースは序盤からなかなか上がらなかった。駒大は1区にルーキーの白鳥哲汰を起用したが、区間15位と出遅れてしまう。
2区のエース・田澤廉(2年)でリードを奪う、必勝パターンに持ち込めなかったのが最初の誤算だっただろう。
田澤は「自分のところで巻けるだけ巻こうと思って」懸命に前を追ったが、記録としては区間7位止まり。それでも3区の小林歩(4年)が区間2位の力走で、3区を終えた時点で駒大は3位の位置につけていた。
4区でまた区間11位と苦しい走りになったが、ライバルチームにもそれぞれ大きなミスがあり、駒大はここで2位に浮上する。手応えを感じられない中で順位が上がるという、まさに不思議な展開だった。
大胆な起用が吉と出た駒大
勝機をたぐり寄せたのは、戦前では不利と思われていた山の特殊区間である。
ここ数年、駒大は5区、6区で苦しむことが多かった。だが今回は、5区にルーキーの鈴木芽吹、6区に花崎悠紀(3年)と共に箱根駅伝未経験の選手を抜擢。この大胆な起用が吉と出た。
鈴木は強い向かい風と寒さに苦しみながらも、「ラスト2kmの平坦で勝負しろ」という大八木監督の言葉に応え、粘り強く首位を追走。区間2位となった創価大学の三上雄太(3年)には及ばなかったものの、区間4位の走りで創価大との差を逆転も可能な2分21秒差にとどめた。
さらに復路のスタートとなった6区では花崎が区間賞を獲得し、創価大との差を一気に1分8秒差にまで詰めた。走り終えた直後、花崎は電話インタビューにこう答えている。
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