新型コロナウイルスの感染拡大は、今年のドラフト戦線にも大きな影響を及ぼした。春夏の甲子園が史上初めて中止になるなど、アマチュア選手は実戦機会が激減。プロ野球のスカウトたちは特に高校生の評価に頭を悩ませた。アマ担当キャップの松井いつき記者が、特別な一年を総括した。 【12球団指名選手一覧】
今年は例年以上に、現場スカウトの「目」が試されるドラフトとなった。春夏甲子園、全日本大学選手権、社会人日本選手権など、多くの全国大会が中止。夏以降、球音は徐々に戻ったが、移動制限でスカウト活動自体ができなかったり、複数の目で評価する「クロスチェック」を取りやめた球団もあった。ある編成幹部は「上位候補は直接見たが、中位クラスは担当スカウトの目を信じるしかなかった」と本音を漏らす。
特にスカウトから悩ましい声が上がったのが、成長過程にある高校生への評価だ。DeNAの吉田孝司顧問兼球団代表補佐は「いつもは2、3回見る機会があるが、今年は1回しか見られていない選手も多い。高校生の評価が非常に難しい」と明かす。一般的に高校生は2年の秋までにチェックし、3年春の時点でリストを作成。その後、夏の地方大会や甲子園で最終チェックを行い、絞り込む。あるスカウトは「全国大会は選手同士を比較したり、各スカウトそれぞれの目線で評価を行う場だが、それができなかった。まだ埋もれている選手がいるかもしれない」と話す。
1位指名された高校生は3人で、昨年の7人から減少。最近では10年に並ぶ少なさだ。元々、大学生に逸材が多い年ではあったが、活躍次第で「スター性」や「知名度」などの付加価値がつく春夏の甲子園がなかったことも影響した。能力が未知数の高校生に投資するよりも、より完成度が高い大学生に人気が集中。その中でソフトバンクは1位で近大・佐藤の抽選に敗れたものの、5人全員が高校生。素材重視のドラフトとなった。
スカウトがチェックできる実戦の場が減少する中、NPBと高野連がタッグを組み、8月下旬と9月上旬にプロ志望の高校生を対象にした合同練習会が開催されたことは、画期的だった。阪神7位の高寺(上田西)らそこで評価を上げ、指名につなげた選手もいた。
さまざまな苦労や制限を乗り越えて迎えた10月26日。スカウトにとっても「特別なドラフト」となった。(松井 いつき)
≪新様式問題なし≫感染対策を徹底して無観客で実施した新様式のドラフト会議を終え、日本野球機構の井原敦事務局長は「コロナ対応で異例のオペレーションとなったが、皆さまのご協力で無事に終わりました」と振り返った。12球団は個室からオンラインで指名。「そこでの換気は注意を払った。システムがうまく流れるかという心配もあったが、トラブルはなかった」と運営への支障もなかったという。
【ドラフト会議新様式】
☆メイン会場なし 例年2000平方メートルを超える都内ホテルのホールが会場だったが、今年用意されたのは12球団それぞれの個室と、競合となった際のために用意された抽選ルーム。各球団は個室で指名選手をオンラインで送信し、競合の際は抽選ルームでクジを引いた。
☆個室の感染対策 個室には各球団の入室者を6人に限定。マスクの着用が必須となる。さらに個室内のテーブルには6人を仕切るアクリルボードを設置。窓開けによる換気も促した。
☆12年ぶり無観客 09年から招待された1000人のファンがドラフト会場に入場していたが無観客に。中継を行うTBSもスタッフを最小限とし、一部はフェースシールドを着用したまま中継に携わった。
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